事業承継計画の策定

事業承継計画とは

  1. 事業承継の具体的な進め方を定めた計画を策定する。
    自社を取り巻く状況を踏まえて、事業承継を着実に進めていくために、具体的な「事業承継計画」を策定します。事業承継計画は、経営者が一人だけで考えるものではありません。後継者や親族などと一緒に、取引先や従業員、金融機関等との関係などを考慮しながら、策定します。
  2. 中長期的な経営方針や目標を設定する。
    事業承継計画では、自社の中長期的な経営方針、方向性、目標などを設定しながら、その中に事業承継の行動計画を盛り込んでいきます。
    事業承継後に事業運営を担うのは後継者ですので、後継者抜きの計画策定は基本的にありえません。後継者が実行できる取組まで事業承継後の目標として織り込むことができれば、経営者交代があっても、切れ目のない一貫した事業展開が期待できます。
  3. 事業承継計画における目標
    事業承継計画は、会社の10年後を見据えて策定します。
    (1) 10年先までの経営方針
     ・事業の維持・拡大をする。
     ・事業領域を堅守する。
     ・新事業に挑戦する。
     ・組織体制の在り方を検討する。
     ・必要な設備投資計画を行う。
     ・売上や利益、シェアを拡大する。
    (2) 事業承継の行動計画
     ・いつ?
     ・何を?
     ・誰に?
     ・どのように?

「これまでの歩み」を振り返りながら計画を作る

承継作業のスケジュールとは別に、会社の経営理念や経営者の想いを後継者・従業員へつなげていくことで、事業承継後もブレることのない事業運営、会社の強みを維持できます。
将来に向けた計画を策定する前に、まず経営者が現在に至るまでの過去を振り返り、創業時の状況、これまで事業を運営してきた歩み、転機を再確認してみましょう。

再確認しておきたいこれまでの歩み

以下の事項を整理し、明文化して後継者及び従業員と共有しましょう。

  1. 会社の過去から現在までの歩み。
    ・なぜその時期に?
    ・その場所で?
    ・(なぜ他の事業ではなく)その事業を?
    ・なぜその人(創業者)が?
  2. 経営者として事業に対する想い。
    ・信条
    ・価値観
    ・目的、希望

事業承継計画の策定に必要な作業

事業承継計画の策定に必要な資料をまとめ、目標や課題を考えます。

  1. 自社の現状分析
    「経営者及び会社のこれまでの歩み(経営の見える化)」を通じて把握した事業の現状を整理する。
  2. 今後の予測
    事業承継した後、事業の持続的な成長を実現するために今後の環境の変化を予測し、対応策を検討する。
  3. 方向性、承継時期
    現在の事業を継続していくのか、事業の転換を図っていくのかなど、自社の事業領域を明確にする。実現するための戦略についてもイメージを固め、事業承継の時期、方法を計画していく。
  4. 目標の設定
    売上や利益、マーケットシェアといった具体的な指標ごとの中長期的な経営戦略について、目標を設定する。
  5. 課題の整理
    後継者を中心とした経営体制へ移行する際の具体的課題を整理する。専門家への相談、資金調達といった要素を盛り込むことで、より現実的な計画が策定できる。

経営計画の策定方法

事業承継計画の策定は、中長期目標の設定、経営者の行動の設定、後継者の行動の設定、会社の行動の設定、関係者との事業経営計画の共有を行います。また、作成した事業承継計画の進捗確認を定期的に行う必要があります。

会社の中長期目標の設定

経営の「見える化」、会社の「磨き上げ」などを行い、会社の現状把握と課題の解決策を進めながら、会社の将来に向けた中長期的な経営計画、経営ビジョンを策定します。
会社の事業規模、事業の方向性、売上高や経常利益など具体的な数値目標を設定します。
この中長期的な経営計画を踏まえて事業承継の実行計画を重ねていきます。

経営者の行動の設定

経営者のアクションが事業承継に向けた第一歩となります。
経営者の具体的な行動としては、後継者の選定に始まり、税理士などの専門家のサポートを受けながら、自社株式をはじめとする事業用資産の承継を計画的に進めます。後継者の育成も経営者の大事な役目の一つです。

  1. 人の継承に関する行動
    (1) 後継者を選定する。
    (2) 関係者に周知(計画の公表)のする。
    (3) 後継者への段階的な権限移譲を行う。
    (4)  専門家に相談する
  2. 資産・知的資産の承継に関する行動
    (1) 自社株式の生前贈与(暦年贈与の活用)
    (2) 遺言の作成(遺留分への配慮)
    (3) 後継者との綿密なコミュニケーション

後継者に自社株式を集中的に承継することで経営権の分散リスクに備えることができます。
そのためには、後継者を早期に選定し、経営者が計画的に生前贈与を進めていくことが望まれます。
相続トラブルを防ぐためにも遺言を作成しておくことが理想的です。
遺留分や後継者以外の相続人の心情にも配慮しましょう。

後継者の行動の設定

社内外の関係者に「次期経営者として認めてもらう」という立場で、自社の経営を取り巻く環境に対する理解、経営に必要な実務能力を高めることを心がけた行動計画を設定します。
企業理念や経営方針、経営者としての覚悟、振る舞いについても、経営者とコミュニケーションを図りながら身に付けていくことが大切です。

  1. 社内研修
  2. 社外での実務経験
  3. 当事務所での研修(後継者塾)

会社の行動の設定

会社の行動は、自社株式の分散を防止するための行動が中心となります。経営者が経営権を掌握している事業承継計画の早い段階で、定款の変更などを行います。また、経営者交代のタイミングで経営者に対する退職金の支給があるので、原資を確保するための資金プランも考える必要があります。

  1. 定款の変更
    (1) 相続人に対する売渡請求ができるようにあらかじめ定款を変更しておきます。
    (2) 後継者以外の株主による売渡請求にも注意が必要です。
  2. 経営者への退職金支給
    (1) 社長退任に伴い退職金を支給する。
    (2) 退職金の原資を確保するために生命保険契約などの資金プランも早めに進めます。
  3. 議決権の集約
    (1) 後継者に経営権を集中させるため、親族が保有する株式を配当優先の無議決権株式とする。
    (2) 名義株の把握、買戻しも進める。

経営承継円滑化法の活用

経営承継円滑化法による中小企業の事業承継を支援する措置があります。同法に規定する要件を満たすことで、遺留分減殺請求を防止する民法上の特例、自社株式の贈与・相続に係る税負担を軽減する事業承継税制といったサポートを受けることができます。
状況に応じて、事業承継計画に含めることも検討しましょう。

  1. 遺留分に関する民法特例
  2. 事業承継税制の活用
  3. 金融支援

関係者との事業経営計画の共有

事業承継計画を関係者と共有しておくことで、後継者、従業員のノウハウ習得、会社組織の再構築など、経営者交代に伴う体制作りを進めることに対する理解や協力が得られやすくなります。
また、事業承継後の信頼関係の維持にもつながります。一方で、後継者が関係者に認知されるかどうかは、事業承継の成否に関わる重要なポイントです。社内外の経営環境を踏まえながら、計画的に対策を実施していくことが求められます。

事業承継計画の進捗確認

事業承継計画を作成した後は、実行することが求められますが、必ずしも当初の計画どおりに進捗するとは限りません。そこで、四半期ごとまたは毎決算時に進捗を確認する必要があります。
特に、会社の業績は、予定どおり進捗しないケースが多くあります。
このような場合は、事業計画の何処に問題があったのか、それを克服できるのかを検討する必要があります。
その上で事業計画を修正する必要があれば修正し、全力を挙げて事業計画に取り組めるような社内の合意を形成する必要があります。

当事務所のサポート

当事務所では、以下のサポートを行います。

  1. 経営承継計画策定のサポート
  2. 中長期経営計画策定のサポート
  3. 生前の相続対策の提案
  4. 経営承継円滑化法の適用の提案
  5. 金融機関との調整
  6. 当事務所主催の後継者塾の開催による後継者の育成

当事務所は、経営革新等支援機関に認定されておりますので、是非ご相談ください。

出典:「事業承継マニュアル 2017年3月」(中小企業庁)を編集・加工して作成しています。